大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山地方裁判所 昭和55年(ワ)634号 判決 1981年4月30日

原告

荒木杢志

被告

三島忠

ほか一名

主文

被告らは各自原告に対し、金二二二万五二五六円及びこれに対する昭和五三年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金二八四万四〇七〇円及びこれに対する昭和五三年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告三島)

原告の請求を棄却する。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、昭和五三年一二月一四日午前一一時一五分頃、自動二輪車を運転して、南から北に向かい、岡山市新保五二〇番地先市道のT字路に差しかかつた際、被告三島忠運転の普通乗用自動車が、西側道路から原告の進路前方四、五メートルに進入して右折しようとした。

原告は、被告車を発見するや直ちに急制動するとともにハンドルを右に切つて衝突を避けようとしたが、避け切れず、被告車の前部バンバー及びナンバープレート付近が原告の左膝に衝突し、原告は自動二輪車とともに約二メートル右前方の用水石垣沿いに横転して後記の傷害を受けた。

2  右交通事故は、被告三島の過失により発生したものであるから、同被告は民法七〇九条によつて原告の蒙つた損害を賠償する義務がある。

すなわち、被告車が進出してきた前記T字路の西南角にはブロツク塀があつて、被告車から右方(南方)への見通しはきかない状況にあつたのであるから、同被告は右T字路を右折、南進するについては、一旦停止して右方(南方)道路の安全を確認したうえで発進すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず、同被告はこれらの注意義務を怠つたものである。

3  また、被告織田は、被告車を所有し自己のため運行の用に供していたものであるから、同被告は自賠法三条により損害賠償の義務がある。

4  原告は、右事故により左膝蓋骨開放骨折、左膝挫傷、右手打撲等の重傷を負い、事故当日以降昭和五四年四月二七日まで、岡山市新保ウチダ病院に入院し、退院後も同年八月三一日まで同病院に通院して治療を受けた。

5  本件事故・受傷により原告が蒙つた損害は次のとおりである。

(一) 治療費(原告負担分) 八万円

(二) 入院雑費 八万一〇〇〇円

一三五日の入院期間中、雑費として一日あたり少くとも六〇〇円を要した。

(三) 付添費 一七万四〇〇〇円

医師が付添看護を必要と認めた五八日間、原告の妻が付添つたが、その費用は一日あたり少くとも三〇〇〇円を下らない。

(四) 通院交通費 六一〇〇円

バス代一日二二〇円の二三日分及び退院当日のタクシー料金一〇四〇円を要した。

(五) 休業損害 四九万二三七〇円

原告は、本件事故当時、財団法人岡山県交通安全協会に勤務し、月額九万七四〇〇円を下らない給与を受けていたが、本件事故のため長期療養を要するとの理由で、翌五四年六月三〇日限りで同協会を退職させられ、その後五五年三月末まで一年三か月半にわたり、再就職が不能であつた。その間同協会から受け得た筈の給与合計額は一五〇万九七〇〇円であり、一方、その間に受けた労務災害休業補償金は六六万〇四九〇円、失業保険金は三五万〇六四〇円であるから、結局、休業による損害は四九万二三七〇円となる。

(六) 賞与不支給による損害 四六万〇六〇〇円

原告は、本件事故による休業がなければ、事故翌年の夏季手当(賞与)として一八万八〇〇〇円、年末手当(賞与)として二七万二六〇〇円の支給を受け得たのに、前期休業により右各賞与とも支給を得られず、同額の損害を蒙つた。

(七) 慰藉料 一四〇万円

原告は前記のとおり、入院四・五か月、通院四か月にわたる治療を余儀なくされたうえ、前記交通安全協会を退職のやむなきに至つた。これらによる精神的苦痛を慰藉するには、少くとも右金額をもつてするのが相当である。

(八) 弁護士費用 一五万円

原告は、本件事故による損害の賠償を求めて被告らと交渉し、調停の申立をも経たが、被告らが任意の支払に応じないため、表記訴訟代理人に本訴の提起を委任し、報酬として一五万円を支払い、同額の損害を蒙るに至つた。

6  よつて、被告らに対し、各自前記5(一)ないし(八)の合計額二八四万四〇七〇円及びこれに対する事故発生の翌日である昭和五三年一二月一五日から完済までの、民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

二  請求の原因に対する答弁(被告三島)

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2の主張は争う。被告三島は本件T字路で一旦停止し、クラクシヨンを鳴らし左右の安全を十分確認したうえで右折を開始したが、原告車が相当の高速で接近してきたため、衝突を避け得なかつたものであつて、同被告に過失はない。

3  同4、5の事実はすべて不知。

第三被告織田の応訴状況

同被告は、適式の呼出を受けたが本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

第四証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因1の事実(事故の発生)は、原告と被告三島の間で争いがない。

二  同2(被告三島の過失)につき判断するに、成立に争いのない甲八ないし一二号証、原告及び被告三島各本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)によれば、以下の事実が認められる。

1  本件事故現場は、南北に通ずる幅員約三・一メートルのアスフアルト舗装道路(南北道路という)と、西方からこれに直角に接続する幅員約三メートルの非舗装道路(東西道路という)とによつて形成されるT字型交差点であり、信号機の設置はなく、交通規制も見受けられない。同交差点南西角には、南北道路の西側端、東西道路の南側端に沿つて人家のブロツク塀(高さ約一・四メートル)があるため、北進車及び東進車からの相互の見通しは極めて悪い。

2  原告は、原告車を運転し、南北道路を時速約一五キロメートルで北に向かい直進中、被告車が左前方のブロツク塀の蔭から進路前方に進入して来るのを至近距離で発見し、直ちに急ブレーキをかけるとともにやや右に転把したが及ばず、原告車前輪左側フオークと被告車左前部バンバーとが擦過状に接触し、原告はその場に転倒した。

3  一方、被告三島は、東西道路を東進し、右交差点を右折して南進すべく、クラクシヨンを一回鳴らし、時速約一〇キロメートルで交差点内に進入した時、原告車を至近の位置に発見してブレーキをかけたが及ばず、前記のとおり衝突するに至つた。

4  右のように、被告車はT字型交差点に右折して進入するものであり、直進車の進行を妨害してはならないのであるし、右方にはブロツク塀があつて極めて見通しが悪い状況であるから、右折にあたつては一時停止し、特に右方の安全を十分確認し、なお見通しが十分でないときはクラクシヨンを連続して鳴らし警戒を与えたうえ、最大限徐行しつつ進行する等の注意義務があると言うべきところ、同被告は一時停止をせず右方の安全確認も尽くさないまま交差点に進入したと認められるのであつて、同被告の過失の存在は明らかであり、右過失が本件事故の主たる原因をなしたものと認められる(なお、同被告本人は、一旦停止したところへ原告車が時速四〇キロメートル位で接近、衝突したと述べるけれども、前掲各証拠に照らし措信し難い)。一方、原告としても、ブロツク塀のため左方の見通しが特に悪く、気づかないうちに西側道路から車両が接近しつつあることも考えられなくはないのであるから、予めできるだけ減速し、左方に細心の注意を払いつつ進行するのが相当であつたと言うべく、この点若干の過失は否定できないとみられる。その他、前掲各証拠にあらわれた一切の状況を考慮し、本件事故については、被告三島八、原告二の割合をもつて帰責せしめるのが相当と認める。

三  成立に争いのない甲一号証の一・二及び原告本人尋問の結果によれば、請求原因4の事実(原告の受傷及び入・通院治療)が認められる。

四  そこで、同5の事実(原告の損害)につき検討するに、成立に争いのない甲二号証により(一)の治療費支出を、同一号証の一・二及び弁論の全趣旨により(二)の入院雑費支出を、同号証の一・二、同三号証及び弁論の全趣旨により(三)の付添費支出を、同四・五号証により(四)の交通費支出を、同六・七号証及び原告本人尋問の結果により(五)の休業損害及び(六)の賞与不支給による損害をそれぞれ認めることができ、これに反する証拠はない。以上の合計額は一二九万四〇七〇円となる。

五  原告は前記のとおりの重傷を受け、一三五日間の入院と約四か月間の通院(ただし、実日数は二三日)を余儀なくされ、また請求原因5(五)の事情により、勤務先岡山県交通安全協会を退職のやむなきに至つたことが認められる。これらにより原告の蒙つた苦痛を慰藉するには、金一三〇万円をもつてするのが相当と認める。

六  ところで、本件事故発生につき、原告にも二割の帰責事由があること前記のとおりであるからこれを斟酌し、原告が被告三島に賠償を求め得る損害額(弁護士費用を除く)は、右四・五の合計額から二割を減じた二〇七万五二五六円となる。

七  原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は請求原因5(八)のとおり、弁護士費用一五万円を負担、支出したことが認められる。本訴提起に至る経緯、本訴請求の内容、審理の経過及び認容金額等に照らし、右一五万円は本件事故による損害として、同被告に負担せしめるのが相当と認める。これを右六の金額に加えると、二二二万五二五六円となる。

八  以上は原告と被告三島との間で認定・判断したところであるが、被告織田は民事訴訟法一四〇条により、原告主張事実(上記各事実のほか、自賠法上の青任原因事実)を自白したものとみなされる。もつとも、右擬制自白の効果は、原告主張の損害額そのものには及ばず、損害発生の原因たる事実関係についてのみ生ずるものであるところ、その数額については、被告三島に関して上述したところが被告織田についてもすべて妥当し、同一の額を認定するのが相当である。

九  以上の次第で、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し、金二二二万五二五六円及びこれに対する本件事故発生の翌日である昭和五三年一二月一五日以降完済までの、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田川雄三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例